【ダービー卿CT回顧】大混戦を断ったスズハロームの末脚 相棒を信頼しきった藤懸貴志騎手の好騎乗

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数字以上に厳しい流れ
春の中山の名物ハンデ重賞・ダービー卿チャレンジトロフィーはスズハロームが後方一気を決め、重賞初制覇。2着サイルーン、3着ファーヴェントで決着した。
1番人気ファーヴェントの単勝オッズは5.7倍もつき、単勝万馬券は2頭だけ。10倍台が7頭もいて、12番人気でも17倍しかつかない。超がつく大混戦であり、その難易度は今年1、2を争うほど高かった。
終わってみれば上位は10番人気、6番人気、1番人気。スズハロームの単勝1590円は金額としては妥当な感もあるが、10番人気のオッズではない。実力の上下差が極めて少ないレースだっただけに、展開が結果に与える影響は大きい。
逃げ候補は前走3勝クラスを逃げ切ったメタルスピードと、東風ステークスで先手をとったエンペラーズソード。どちらも同舞台で逃げを打っており、さらに2枠に同居と先陣争いは注目のひとつだった。
五分のスタートから機先を制したのは、ひとつ内に入ったエンペラーズソードだった。メタルスピードは無謀な競り合いを避け、一歩引いた形をとっていたが、終始エンペラーズソードにプレッシャーをかけ続け、ペースを落とさせなかった。
その背後に人気を背負ったファーヴェントとミニトランザットがつけ、ペースは自然と厳しい方向へ傾いていく。それはラップ推移でみてとれる。12.3-11.5-11.6-11.4-11.1。溜めをつくることなく、早めに加速ゾーンに流れ込んでいった。800m通過46.8という数字以上の厳しさを感じる。
騎乗馬を信頼しきった好騎乗
これが直線の逆転劇を呼び込んだ。メタルスピードを力づくで振り切ったエンペラーズソードが急坂で苦しくなり、ミニトランザットら先行勢がとってかわるも、伸びるというより懸命に粘るという状況にみえる。
後半600mのラップは11.6-11.7-12.2。残り200mの12.2はほとんどの馬が伸びずに粘る姿勢に入っていたことを示す。そこで唯一伸びたのが、勝ったスズハロームだ。
道中は最後方で激流に付き合わず、早めに動きもしなかった。4コーナーまで外を狙わず、直線まで大外に持ち出すことを我慢した。藤懸貴志騎手のスズハロームへの全幅の信頼がすけてみえる。わずかでも届かないと思えば動いていたはずで、結果として“動かない”という正解にたどり着いたのは騎乗馬への信頼があったからだろう。
もともと関東にいたスズハロームは、ある程度前につけるか、途中で動くような競馬をみせていた。関西の牧田和弥厩舎への転厩後もしばらくはそのスタイルを続けていたが、京都芝1400mで3勝目をあげたあたりから末脚に比重を置く競馬へ転換していく。
その後も丁寧に競馬を教えていき、藤懸騎手が騎乗するようになった4走前から再浮上のフェーズに入っていった。前走からの連勝は藤懸騎手が付きっ切りで調教してきた成果だ。
この春の中山のトレンド
スズハロームの血統表も目を引く。母アイラインは1400m以下の追い込み型でならし、常に展開待ちだったゆえに人気になりにくい反面、展開さえ読めれば着実に突っ込んでくるので、穴党にとってありがたい存在だった。
その父ローレルゲレイロは逃げ戦法でしぶとかったスプリンターで、アイラインとは真逆のスタイル。だが、これは速い脚を前半で使うか、後半に使うかの違いでしかなく、それを繰り出せる素地があった。スズハロームに関しても、中途半端に脚を使わせるのではなく、後半にかけるスタイルにつくっていったのは血統上正しい姿だったといっていい。
アイラインの母系はローレルシャイン、アラマサゴールドときて、アラホウトクにたどり着く。そう、先日のUAEダービーを勝って早くも米国入りを果たし、ケンタッキーダービー出走を目指すワンダーディーンと同じ牝系になる。古くから日本に根づく牝系が同時期に重賞を勝つ。まだまだ日本の競馬にもロマンの香りは残っている。
多様な血があるなら、この手の血も生き残ってしかるべきで、アラホウトクとその母ビンゴモレロから現代まで血をつなげてきた生産者のアラキファームには感謝しかない。Webサイトを閲覧すると、新冠の老舗牧場は従業員3名ながら、全方位カメラを設置するなどITを駆使した合理的な生産体制を構築している。新たな技術を取り入れる姿勢が重賞タイトルにたどり着いた。時代を生き残る術が垣間見える。
2着サイルーンは昨年の東風S以来となるマイル戦出走で変わり身をみせた。当時も重馬場であり、雨の影響を受けた馬場も味方し、上がり2位の末脚で突っ込んできた。
気になるのはこの春、中山芝1600mで馬番16番がやたらと走っている点だ。春開催に限ると【1-2-1-6】。馬券に絡んだのは11番人気、12番人気、8番人気、6番人気と人気薄ばかり。メタルスピードが勝った幕張Sとルールザウェイヴが2着に粘ったアネモネSは同日の記録であり、レガーロデルシエロが3着に突っ込んだ東風Sはその翌日のできごとだったため、記憶に残っていた。
そしてここも、サイルーンが大外枠から2着に好走した。我々買う側はどうしても中山芝1600mの大外枠はセオリー通り嫌いたくなる。だが、実際はその逆のことが起こっている。この違和感は必ず次につなげていきたいものだ。来週も中山芝1600mで重賞が行われる。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『サラブレッド大辞典』(カンゼン)に寄稿。
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